書籍紹介「健康寿命をのばす食べ物の科学」佐藤隆一郎 著
「健康寿命をのばす食べ物の科学」
佐藤隆一郎 著 ISBN978-4-480-07549-9
Ⅰ 脂質摂取過剰は危険
1.トリグリセリド
(1)現在の日本人の脂質摂取量は1日当たりおよそ61gでその大半はトリグリセリドです(コレステロールは約0.4g)。
(2)動物性脂肪は乳製品、畜肉(牛、豚、鶏など)、魚類から摂ることができます。
(3)畜肉に含まれる脂質は飽和脂肪酸に富んだトリグリセリドで、これはグリセロールに飽和脂肪酸が複数個結合した分子です。
(4)飽和脂肪酸に富んだ食事を摂り続けると、脂肪細胞の脂肪滴内にトリグリセリドが蓄積され、肥満になりやすく、さらに動脈硬化などを発症する原因となります。
(5)一方、エネルギー枯渇時にはトリグリセリドを分解し、脂肪酸を血中に放出し、体内の各組織に送り出します。
(6)日本人の食生活を分析すると、低カロリーではあるものの、畜肉による脂肪エネルギー比率が高い傾向にあり、それが生活習慣病の急増の原因となっています。
(7)従って、低体重のやせ型体型の女性でも脂肪肝と診断されることがあります。
2.コレステロール
(1)コレステロールは細胞膜、性ホルモン、ビタミンD、胆汁酸などの原料となる生理的役割があります。
(2)しかし、コレステロールが高い状態が続くと、各組織に十分量供給され、供給を断つために、LDL受容体が減少します。
(3)そこで、各組織に取り込まれなかったLDLは血中に長期間滞留し、酸化します。
(4)酸化LDLはマクロファージに取り込まれプラークを作り、動脈硬化の原因となります。
(5)つまり、コレステロールはトリグリセリドと異なり、体内で燃焼してエネルギー源にならないうえに、マクロファージに捕食されても完全分解して体外に排泄できません。
(6)一方、畜肉と一緒に野菜を摂ると、植物ステロールと胆汁酸によるミセル形成によって、コレステロールはミセル形成の機会を失い、小腸からの吸収は抑制されます。
Ⅱ 健康寿命を延ばす生活習慣
1.食事
(1)腸内の善玉菌の餌となる食物繊維(イモ類、豆類、海藻類)を摂取する。
(2)すると、酢酸、酪酸、プロピオン酸といった短鎖脂肪酸が作られ、腸内は酸性に傾き、有害物質の産生が低下します。
(3)寿命を延ばすには豆類50g(納豆1パック)、玄米茶椀一杯、手のひら半分のナッツ類を摂取し、畜肉は抑制する。
(4)筋量を維持するために、良質タンパク質を含む大豆製品、乳・卵製品、魚介類を積極的に摂る。畜肉は50g以下に抑える。
(5)色のついた野菜や果物、コーヒー、緑茶により、生体調整機能を有するポリフェノールを摂る。
2.運動
(1)筋量低下→転倒→寝たきりという負のスパイラルに陥らないために、下肢を鍛えるウォーキングなどの運動で筋量を維持する。
(2)運動すると骨格筋(体重の40%)でエネルギーが消費されたことを感知し、AMPキナーゼが活性化します。
(3)AMPキナーゼが活性化すると、脂質代謝改善機能と糖代謝改善機能がアップします。
(4)1万歩までのウォーキングは2000歩ごとに、全死亡リスクを8%低下させます。
(5)一方、1万歩を超えて歩いても効果はほとんど上がりません。
食品生化学の第一人者が最新データと科学的エビデンスをもとに、健康に長生きするための食事などの生活習慣のコツをわかりやすく解説。
2023年12月21日 9:01 カテゴリー:書籍紹介
書籍紹介「日本人の「遺伝子」からみた病気になりにくい体質のつくりかた」奥田昌子 著
「日本人の「遺伝子」からみた病気になりにくい体質のつくりかた」
奥田昌子 著 ISBN978-4-06-527456-9
Ⅰ 病気の「なりやすさ」と病気
病気に「なりやすい」からといっても、必ずしも病気に「なる」とは限りません。
1.病気の「なりやすさ」
親から受け継いだ遺伝子のタイプと遺伝子の働く強さが、病気の「なりやすさ」を決めています。そして、病気の「なりやすさ」(体の設計図)は基本的に生涯変わりません。
2.病気
親から受け継いだ病気の「なりやすさ」に以下の2つの変異が加わることで病気になります。
(1)生後に起きる遺伝子変異
生活習慣や環境により遺伝子に傷がつき望ましくない遺伝子変異により病気になる。
この変異は一度起こると戻すことはできません。
(2)生後に起きるエピジェネティクス変異
体の設計図は変化せずに、悪い生活習慣や環境によって、遺伝子発現のスイッチがオンやオフに切り替わる変異によって病気になる。但し、この変異は生活習慣や環境の改善によりリセットできることがあります。
(3)まとめ
前記の2つの差異による遺伝子への影響度は、体の設計図が生まれながらに決定しています。つまり、「遺伝」と「生活習慣と環境」は密接不可分の関係にあります。さらに遺伝子のスイッチのオンやオフがそのまま子孫に伝わる可能性があることも明らかになっています。
Ⅱ 日本人の「遺伝子」と「体質」の特徴
主な特徴は以下の通りです。
1.酒に弱い日本人はアセトアルデヒドを分解する酵素が少ない。稲作は感染症の危険が伴うことから、アセトアルデヒドが侵入した病原体の活動を抑制し、生存に有利に働いた可能性が考えられます。
2.日本人の胃は釣り針のように曲がった形の鉤状胃なので、食物繊維の多い穀物を食べるようにできている。
3.魚を多く食べてきた日本人は悪玉コレステロールにEPAやDHAが多く含まれて、動脈硬化になりにくい。
4.白筋の弱い日本人は筋力が弱く、内蔵を支えることができません。そこで、これを補うため内臓脂肪がつきやすくなり、一見痩せていても、生活習慣病になりやすい。
5.大腸がんや生活習慣病を予防するため、腸内の善玉菌の餌となる食物繊維をもっと摂取する必要がある。
生まれ持った「遺伝的な体質」は変えられる!
最近科学が示す「日本人が健康になる秘訣」とは
2023年12月7日 9:09 カテゴリー:書籍紹介
書籍紹介「カオスなSDGs」酒井敏 著
「カオスなSDGs」
酒井敏 著 ISBN978-4-08-721259-4
近年声高に叫ばれる「SDGs」や「サステナブル」という言葉。環境問題などの重要性を感じながらも、レジ袋有料化や紙ストローの導入、SDGsバッジなどの取り組みに、モヤモヤしている人は少なくないでしょう。
国連の定義によれば、「持続可能な開発」とは「将来の世代がそのニーズを満たせる能力を損なうことなしに、現在のニーズを満たす開発」のこと。
SDGsは未来のために「いま」を犠牲にしろと言っているわけではなく、現在に生きる私たち自身のニーズを満たしながら、将来世代のニーズも満たしましょうという話です。とりわけ日本の場合、SDGsといえば脱炭素や脱プラスチックといった環境問題ばかり注目されますが、17の目標を見ればわかるとおり、そこには「環境」のほかに「経済」「社会」という大きな柱があります。これら3つの分野での持続可能性をどれも高めようとすれば、必ずどこかで優先順位をめぐるケンカが起きます。どこかで「キレイゴト」を引っ込めて、「大人の事情」に基づく調整が必要になります。
例えば、プラスチックの場合、完全なリサイクルにこだわらず、少しずつ品質を下げて、同じ素材を何度か使い、最後はエネルギー源として石油の代わりに燃やして熱回収するのが、一番サステナブルでしょう。
複雑系の研究の「カオス」では、因果律は存在していても、現在の状態から未来を予測することはできないし、過去にあったはずの原因を特定することはできません。
実際、IPCCも温暖化の予測を外しました。1990年代に報告されたIPCCのシミュレーションによれば、温暖化は加速度的に進むはずでしたが、1998年から約15年間、気温の上昇が停滞し、この「ハイエイタス」現象をIPCCは予測できませんでした。
「カオス」は「混沌」という意味ですから、秩序とは無縁のものに思えますが、じつはそうではない。未来は予測不能だけれども、そこにはある種の秩序が生まれてしまうのです。
ですから、SDGsの17の「ゴール」も、目指すべき正解では決してありません。
いまの私たちが少しでも楽しく幸福に暮らせるよう、破滅的な事態の発生を先送りにして、結果オーライで解決できるよう、時間稼ぎをすることはできるでしょう。
その意味で、SDGsは目指すべきゴールではなく、私たちが生き方を見直すためのスタートラインなのだと思います。
元京大変人講座教授SDGsにモヤモヤする!!
2023年11月16日 9:06 カテゴリー:書籍紹介