書籍紹介「命の時間を抱いて」 石川恭三 著 

命の時間を抱いて
石川恭三 著 ISBN978-4-309-02288-8

医者は普通の人が一生見ないですむような、悲しく、辛い、そして、残酷ともいえる場面にしばしば立ち会わなくてはならない。著者は大学病院に勤務する医者だったので、重篤な患者さんを診察することが多かった。その上、専門が循環器病であり、主宰していた内科学教室の担当領域に血液病学が入っていたので病床の多くは常に重篤な患者さんで埋まっていた。

退院を目前にして喜びがころころと小さな音を立てながら全身から転げ出ているような人の診察が終わったすぐあとで、臨終が間近に迫っている人の重苦しい空気が充満している部屋に入らなくてはならないこともままあった。それは暖かい部屋から冷凍庫へ入るようなもので、精神的な大きな温度差が心的トラウマとなって心の皺を深めたのは確かだった。そんなとき、気持ちを静めるために周囲に気づかせないように何度も深呼吸をしなくてはならなかった。これまでを振り返ってみると、医者であることに喜びや幸せを感じた量は、悲しみや辛さを感じた量よりはるかに多いと思っているし、医者になったことを後悔していない。

患者さんとの出会いを通して、その人の人生の流れの一部をごく間近に見てきた。そこに、人間の様々な情感が凝縮され渦巻いているのを肌身に感じて、共感したり、感動したり、たじろいだりして、心は大きく振動するのが常だった。そして、その時々に、それぞれの患者さんから“どう生きるか”という切実なメッセージを受け取ったのである。本書は、著者の心に今なお鮮明な記憶として温存されている患者さんの“生きる容”を物語ったものである。

医者人生50年 患者とともに、生の喜びと死の哀しみを見つめ続けてきた命の時間。人間として、どう生きるか。屈指の名医、感動の書き下ろし!

2014年7月17日 9:04  カテゴリー:書籍紹介

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