書籍紹介「人生の実力」 柏木哲夫 著
人生の実力
柏木哲夫 著 ISBN 4-344-01183-X
著者はホスピス医として、今まで二千五百名を超える方々を看取ってきた。ケアをさせていただきながらも、逆に患者さんから多くのことを教えられた。
その第一は、生の延長線上に死があるのではなくて、私たちは刻々死を背負って生きている存在だということである。生の延長線上に死があると考えていた人が、人生を途中でプツッと切られるような事態に直面した時には「まさか自分にこんなことが」と思うのが人の子である。そういう患者さんをずっと見てきて著者は「まさか」という事態が起こるのが人生だと覚悟しておいたほうがよいと考えるようになった。
人生の諸段階で経験する喪失体験(ex.病気、失恋、失業)は「小さな死」とも考えられる。このような「小さな死」という体験をうまく乗り越えた普通の人は、割りに上手に本人の死も身内の死も対処することができるが「小さな死」をまったく体験せずに来た人が「初めての喪失体験」が「自分の妻の死」であったら、これはもう大変である。死への準備がまったくないからである。その人の今までの人生経験が「病的な悲嘆」に関係してくる。
物事が順調に進んでいる時には、その人の本当の力は見えにくい。自分にとって、不都合な状況になった時、どのような態度で与えられた状況に対処できるかで、その人の「人生の実力」が決まる。苦境の中にも生きている証を見ることができ、その状況を幸せと思えるかどうかで、人間の実力が決まる。著者自身も多くの患者さんを見て「人生の実力」の定義が変わり、現在は「どのような状況に置かれても、その状況を幸せと思える力」と定義している。
死をみつめることで、強くなる、優しくなる、大きくなる…。
ホスピス医の第一人者が綴る、人間の不思議な成長の姿ーーー。
今を生きるあなたへの勇気とヒント。
2014年1月30日 8:58 カテゴリー:書籍紹介