書籍紹介「その“がん宣言”を疑え」 福嶋敬宜 著
その「がん宣言」を疑え
福嶋敬宜 著 ISBN978-4-06-272662-7
「がん」であるかどうか、大多数の方は、「主治医」が「レントゲンや血液検査などで診断した」と思っているのではないでしょうか。しかし、それは必ずしも正しくありません。一部の例外を除き最終的にがんか否かの診断を確定しているのは「病理医」という医師たちなのです。病理医の主な役割は、がんなどの病気の疑いがある組織や細胞を顕微鏡で見て病気を診断することです。これを「病理診断」と言います。
主治医ががんと思われるもの、つまり容疑者を捜し出す「警察官」だとすれば、病理医は、それがクロなのかシロなのかの最終判断を下す裁判所の「裁判官」のようなものと言えます。しかし、現在、病理専門医の認定を受けた医師は日本全国で2,000人あまりしかいません。テレビや新聞では産科医や麻酔科医が不足していると騒がれていますが、最も不足している医師は、実は病理医だということはあまり知られていません。
病理医は全国の病院の約9%にしか在籍しておらず、地域の中核病院となるべき「がん診療連携拠点病院」ですら、38%が病理医が不在か1名だけという状況です。病理医が少ない状況では、適切な病理診断なしに患者の診断や治療を行う病院も出てくるかもしれません。
がんに関する医療行為は、どうしても手術件数などの統計データや、がんの早期発見率などで評価されがちですが、その前に、がんと疑われた人の「自分のがんは、はたして本物なのか?」「本当に治療が必要なのか?」「必要であれば、どんな治療法があるのか?」という問いに納得できる答えを出すことが重要です。この答えを導き出すには、画像診断などの医療技術が進んだ現代でも病理診断なしには困難だということを、ぜひ知ってほしいと思います。
病理医である著者は、病理医の視点からがんの正体に迫り、皆さんが正しい戦略と戦術をもって、がんと対峙し、一人でも多くの方ががんを克服することを願って本書を著しました。
2013年10月24日 9:09 カテゴリー:書籍紹介