書籍紹介 「生の暴発、死の誘惑」 岩波 明 著

生の暴発、死の誘惑
岩波 明 著 ISBN 978-4-12-150364-0

困難な状況に置かれてはじめて、人は生きていく「意味」について考えるようになるものである。そして、自らの人生を振り返るとき、自分の内面の空虚さに気が付き愕然とするのかもしれない。それとも、自分が選ばなかった人生の選択肢を振り返り「可能だった別の人生」に思いをはせるかもしれない。時として、どうやっても乗り越えられない障害や、やり直しのきかない失敗は起こる。それらは本人に責任のない不運であることも多い。こうした、つまずきをきっかけとして、生きる意味を失ってしまったと感じるだけでなく、生きる気力を失い死を願うことは誰にでも起こりうる。

精神科の外来を訪れる人たちの、こうした「生きる苦しみ」に対して、多くの精神科医は扱いかねていることが多い。このような問題と真っ正面から向き合うことに、自信も時間的な余裕もないのが現実である。はっきり、それは病院で相談する内容ではないと、診察を拒否する医師もいる。以前までは、どちらかというと著者自身も、そう考えていたが、ここ数年このような医師たちの態度は、必ずしも正しいものではないのかもしれないと思うようになった。

おそらく歴史的にみても、現代の日本は救いや生きがいを見出すことが困難な社会となっている。それは旧来の社会体制や価値観のほころびを露呈してきたことが原因の一つであるが、無意味な伝統や理念に振り回されるくらいなら、いっそすべてが空虚となった方がいいという考えもあるだろう。しかし、社会全体に活力があるときならばともかく、社会が沈滞して閉塞感が強くなっている現在、苦しむ人々はますます出口を見出せず迷走してしまう。年間3万人以上が自らの命を絶つ国、日本。生にもがく人々は、自らを滅ぼすか、突然暴発する。

気鋭の精神科医が豊富な臨床例や小説、映画、サブカルチャーを参考に現代の「生きにくさ」について検証するのが本書のテーマである。

2013年4月25日 9:25  カテゴリー:書籍紹介

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