書籍紹介 「天才脳は“発達障害”から生まれる」 正高信夫 著
天才脳は「発達障害」から生まれる
正高信夫 著 ISBN978-4-569-77107-6
現代日本の状況は、あらゆる面において閉塞感が色濃く漂っている。とりわけ人的資源の枯渇は深刻な問題だ。経済、そして政治の世界においてもそうである。行きづまった事態を切り開いてくれる人材がおよそ見当たらない。横並びをよしとする風潮のツケが、ここへ来てどっと押し寄せたのかもしれない。そもそも今日にいたるまで長い歴史を見渡しても、天才と呼べる人間を日本で探しだそうとすると、なかなか骨の折れる作業であることに気がつく。
本書では五人の人物を時代を追って俎上に載せています。キレやすく執拗だった織田信長、段取り・後片付けができなかった葛飾北斎、異常なまでにものを書きまくった南方熊楠、お金にだらしがなっかた野口英世、際限のない欲望に駆られ働き続けた中内功。彼らの伝記や日記を読み解くと、コミュニケーションや日常生活に独自の困難を抱えていたことは明らか。脳になんらかの機能障害があったのではないかと著者は推測する。大切なのは、だからこそ彼らは「天才」たりえたのだ。
障害をもっているということは、人間全体の多様性を維持するための大変に貴重な生物的「みなもと」であって、変動する文化形成過程に即応した人的資源の供給源であるともみなせる。にもかかわらず、過去の長い歴史にわたって日本の社会は、ひたすらそれを切り捨てることばかりに躍起となり、さらにその傾向がますます激しさを増しているように見える。「天才」といわれた人間でも、突出した才能がある代わり、どこか大きく欠けた面がある。突出した面で欠けたところの埋め合わせをしているようなもので全体として「総計」するとバランスはとれている気がする。
このような発想の下であらためて日本の天才と呼ばれた五人の人物の人生と、社会の受容のあり方をみつめなおしてみようというのが、本書のねらいである。著者は京都大学霊長類研究所教授で、専攻は認知神経科学。ヒトを含めた霊長類のコミュニケーション研究の第一人者によるかけがいのない才能を殺さないため、日本社会の発想の転換を迫る書である。
2013年4月18日 9:12 カテゴリー:書籍紹介