書籍紹介 「穏やかな死に医療はいらない」 萬田緑平 著
「穏やかな死に医療はいらない」
萬田緑平 著 ISBN978-4-02-273489-1
著者は大学病院での外科医を辞め、在宅緩和ケア医に転身して5年、医師3人、看護師8人(2013年2月現在)の地方の小さなクリニックの一医師です。
外科医として病院に勤めていた頃、著者は患者さんの病気を治すべく奮闘してきました。手術や抗癌剤治療、再発治療、救急治療…。見事治癒した患者さんもいましたが、もう治る見込みのない方や、自然な死が近づいているお年寄りまで、同じような治療をしてきました。病状が悪化したり死が近づいて食欲がなくなったら点滴をし、呼吸が苦しくなったら酸素吸入、口から食事がとれなくなったら、胃に穴をあけてチューブを入れ、直接栄養を流し込む胃ろうを造りました。ほとんどが、もう意識がはっきりしない、自分が何をされているかも分からないお年寄りでした。
当時の病院では、それが当たり前であり、自分の役割を果たすべく一生懸命働いていましたが、今、振り返ると、患者さんを苦しめていただけだったかもしれないと後悔する。
現在の著者は、人生の終わりを迎えようとしている患者さんには、「治療をやめたっていいですよ。もう、無理しなくてもいいですよ。」と伝え、ご家族には「この治療が本当に本人のためになるか、よく考えてくださいね。」と言うでしょう。もちろん、それでも患者さんやご家族が治療を続けたいなら、それを否定しません。でも著者は治療をやめたほうがずっと穏やかで、人間らしい最後を迎えられることを知っています。穏やかな死に医療はいりません。
そして、穏やかな死を迎える場所として自宅ほどふさわしい場所はなく、病院は病気との戦いの場です。今の日本において病院で穏やかに死ぬことはかないません。自分らしく死にたいと思ったら、病院を出て自宅に帰るのが一番です。家族がいなくても大丈夫、家族に迷惑をかけるのではという心配もいりません。
著者は、生まれたときに「おめでとう」と言うのなら、亡くなるときにも「おめでとう」と言いたいと思う。そして、本書が読者が終末期や穏やかな死、そして、生きるということを考えるヒントになることを願っています。
2013年3月21日 9:27 カテゴリー:書籍紹介