書籍紹介「治療をためらうあなたは案外正しい」 名郷直樹 著
治療をためらうあなたは案外正しい
名郷直樹 著 ISBN978-4-8222-4700-3
そもそも医療機関にかかる人のうち、本当に検査や治療が必要な人はどれほどいるのでしょうか。聖路加国際病院院長の福井次矢先生の調査(2005年)によると、1,000人のうち、1ヶ月の間に862人が何らかの体調の異常を感じ、307人が医療機関を受診します。しかし、病院に入院するのは、そのうち7人、大学病院に入院する人はわずか0.3人にすぎません。
この調査からわかる通り、体調が変だったけれど、案外なんでもない、という人がずいぶん多い。85%以上の人が何らかの異常を訴えるわけですから、もし、それが放っておいて困ることなら、世の中大変なことになっているはずです。
これらの人の大部分が本当の病気で、1年以内に悪化して入院してしまうとしたら全人口の半分どころか70~80%がその後入院するという事態になってしまいます。つまり、医者にかかってみたけれど実は無駄だった。本当はかからなくてもよかった。そんな人が多い。名医にかかろうがヤブにかかろうが、かからないのと、ほとんど同じ、そんな人が一番多いという結果です。
本書が強調するのは、これくらいは放っておいても大丈夫だよということであったり、治療をどんなに一生懸命したって、これくらいはうまくいかないよ、そんなことです。検査をしてうまくいくこともあれば、うまくいかないこともある。治療についても同様です。検査をするのかしないのか、考えれば考えるほど迷う。薬を飲むのか、これも同じです。もう少し、一般的に言えば、100%確実な検査はほとんどなく、100%有効な治療もほとんどありません。逆に検査しない場合や治療しない場合に、100%不幸な事態に至ることでもないのです。
本書ではEBM(根拠に基づく医療)の次の5つのステップを使って、日常的な病気に対して、どう対処すべきかを取り上げています。
(1)患者さんの問題点を明らかにする
(2)問題について情報収集する
(3)情報を批判的に吟味する
(4)情報を患者さんに適用する
(5)以上のプロセスを評価、反省して次につなげる
そして、こうしたEBMのステップに沿って日々の臨床を実践し続けてきた著者が読者の皆さんに、まず、お伝えしていることは「治療をためらうあなたは案外正しい」ということなのです。
2013年2月21日 9:06 カテゴリー:書籍紹介