書籍紹介 「スーパー名医」が医療を壊す 村田幸生 著
「スーパー名医」が医療を壊す
村田 幸生 著 ISBN978-4-396-11187-8
「医療崩壊」が叫ばれはじめて久しい。実際現場では、習得すべき医療技術の高度化、複雑かつ精緻になる一方の治療レベルにマン・パワーが追いつかず、いたる所で人手不足をきたしている。結果、医師も看護師も超過勤務で疲労困憊し、青色吐息である。それに加えて、以前は考えられなかった理由での医療訴訟や訴訟にまで至らなくとも、患者さんとのトラブルは増える一方で、医者の心は折れかかっている。それでも患者さんの喜ぶ顔が見たいという思いだけで、ぎりぎり踏みとどまっているのが実情だ。
医療崩壊を止めることができるのは、有名な大学教授や医療評論家でもなければ、「神の手」を持つ名医でもなく、医者の大部分を占めながら特に名を知られることもなく、日々患者さんと接している普通の医者たちであることは間違いないと確信する。なぜなら、患者の思いを一番近いところで見聞きし、彼らの不満不信の実態を一番良く分かっているのは、他ならぬ現場の医者たちだからだ。
結論から言えば、医療崩壊を止めるためには、医者を増やしたり制度を変えるといったハード面をいじるのではなく、人の気持ちの持ちようという「心」の問題、つまりソフト面で変えていくしかない。たとえば、「病院で患者が亡くなると、遺族はなぜ医療ミスを疑い、医者に不信の目を向けるのか」「誰もが延命治療を拒絶すると言いながら、自分の親になると一分一秒でも長生きさせたいと思うことの矛盾」――これは、医療現場のみならず、日本人全体が医療とは何か、人の死とは何かというレベルにまで一度降り立って考え直さない限り、解決は難しい。だが、こうしたソフト面について書くことは、ハード面について書くことよりはるかに厄介で、簡単に答えの出ない問題ではあるが、本書を読めば皆さんもきっと「人生における医療の意味づけ」「医療に求めるべきもの」を、自分なりに見直しをはじめるだろう。
最終章を読み終わる頃には、みな自分の人生を振り返り、遠くに住む両親の声が無性に聞きたくなり、家族と色々なことを話し合いたくなっているに違いない。
2013年1月31日 9:46 カテゴリー:書籍紹介