書籍紹介 「抗体医薬」と「自然免疫」の驚異 岸本忠三/中嶋彰 著
「抗体医薬」と「自然免疫」の驚異
岸本忠三/中嶋彰 著 ISBN978-4-06-257633-8
今から700万年ほど前に人類が地球上に姿を現して以来、凶悪な病原体を相手に生死をかけた戦いが繰り広げられている。病原体がもたらす強力な感染症は、まだ医薬を発明していない幼げな人類をいたぶり、いくたびとなく存亡の危機へと追いつめた。だが、徒手空拳に見えた人類の体には免疫という驚異の力が備わっていた。体内に侵入した病原菌やウィルスに戦いを挑み、アルファベットのYの字のような姿をした無数の抗体免疫が現れ、体の前方についた両腕を大きく広げて敵を捕まえる。しかし、敵を捕捉するだけでは驚きにあたらない。免疫の凄みはもっと別のところにある。それは一度遭遇した危険な病原体の顔をきっちり覚え、次の襲撃に備える能力を持っていることだ。人間は一度かかった病気には二度とはかからない。二度目の「疫」病から「免」れる。こうして「免疫」と名付けられた驚異の仕組みの存在に気づいた人類はやがて免疫を利用して恐ろしい病気を予防する知恵さえ身につけた。私たちが「ワクチン」と呼ぶ文明の利器である。
しかし、免疫にも欠点・短所がある。初対面の敵に弱いことである。2度目とは違って、免疫は病原体が体に侵入した当座は病原体の撃退に効果的な抗体をなかなか作れず、その期間は数日に及ぶ。もっと困るのは免疫が時折、何を血迷ったか、守らねばならないはずの人体に牙をむき深刻な自己免疫疾患と呼ばれる病気を起こすことだ。だが、ここで、人類はちょっとした奇跡を起こしてみせた。免疫の仕組みを使って、疾患の背後でうごめく小さな生体分子を捕まえる抗体医薬という新しい医薬を発見した。さらに、抗体医薬が日本に現れた21世紀初頭に原始的な免疫と呼ばれ蔑まれることさえあった。自然免疫の分野から免疫学の根幹を揺るがすほどの成果が生まれた。実は、自然免疫が病原体に差し向ける免疫細胞は精巧な病原体センサーを10種類余りも備え、病原体の正体を正確に識別していたのである。こうして戦う相手が何物かを知った免疫細胞は、すかさず敵の撃退に有効な生体分子を放出して仲間に指示し、この後、獲得免疫が動きだす。
本書は免疫学のはじまりからわかりやすく説き起こし、最先端の成果まで一気に読める21世紀の免疫物語である。
2012年12月20日 9:50 カテゴリー:書籍紹介