書籍紹介「肝臓のはなし」竹原徹郎 著
「肝臓のはなし」
竹原徹郎 著 ISBN-978-4-12-102689-7
今回は前回に続いて、「肝臓の主な病気」を取り扱います。
Ⅱ 肝臓の主な病気
1.黄疸(赤血球のビリルビンの処理)
(1)120日ほどの寿命の赤血球は主に脾臓で破壊され、黄色の色素ビリルビンに変換されます。
(2)不溶性のビリルビンはアルブミンと結合し肝臓に運ばれ、肝臓は水溶液のビリルビン(抱合)にして胆管に流します。
(3)その後、水溶液のビリルビンは「胆汁」の一部として胆道を経て十二指腸から消化管に排泄されます。
(4)黄疸は赤血球の破壊が過剰になると生じたり(新生児黄疸)、肝臓の病気や胆汁が胆道から消化管に排泄されない場合にも生じます。
2.肝炎ウイルス
(1)肝炎ウイルスはA型、B型、C型、D型及びE型の5種類に分類されます(発見の順位はB型→A型→D型→E型→C型)。
(2)A型とE型は「流行性肝炎」の原因になるウイルスで急性肝炎を起こしますが、持続感染はありません。
(3)両型ともにウイルスに汚染された水や飲食を介して感染し、A型は魚介類、E型は食肉を介して感染することがあります。
(4)D型は特異なウイルスでB型に感染している状況においてのみ感染性ウイルスを作る「欠損ウイルス」です。
(5)B型とC型は「血清肝炎」の原因になるウイルスで、体液や血液を介して感染し、持続感染します。
(6)B型肝炎に対する薬剤はウイルスの複製を阻害する核酸アナログ製剤が用いられます。複製を抑制するだけなので、ずっと飲み続ける必要があります。
(7)C型肝炎に対する薬剤はウイルスの特定の分子の機能を抑制するDAAが使用されます。高額な薬剤ですが、2週間位の服用で完了します。
3.肝臓がん
(1)年間約5万人の方が肝臓の病気で亡くなりますが、劇症肝炎(急性肝不全)は数千人で、残りの大多数は慢性肝疾患です。
(2)慢性肝疾患の原因は肝炎ウイルス、脂肪肝、アルコール、自己免疫など様々ですが、プロセスは、肝臓の慢性炎症→硬化(線維化)→がん化という同一の流れになります。
(3)肝臓がんには「肝細胞がん」と「胆管細胞がん」の2種類がありますが、約9割は肝細胞がんです。
(4)肝臓がん診療の特徴は以下の3つです。
・腫瘍生検よりも画像診断が重視される(超音波検査→造影剤を用いたCTやMRI)。
・治療法の選択には肝臓の残存予備能力が問題になります。
・慢性肝疾患から発生するので再発が多い(異所性発がん・異時性発がん)。
(5)治療法は早期であれば、ラジオ波焼灼治療あるいは外科的切除、中程度であれば肝動脈化学塞栓療法、重度であれば様々な抗がん剤治療が行われます。
4.肝硬変
(1)肝臓が線維に置き換わることにより肝硬変が生じ、肝臓の機能が損なわれる「肝不全」に到ります。
(2)また、線維化し、肝臓が硬くなると、門脈からの血流が堰き止められ「門脈圧亢進症」が発生します。
(3)肝臓はあまりにも機能が複雑なために、人工臓器は実用化されていません。従って、肝不全になると他者からの肝移植することが究極治療になります。
(4)肝移植では、免疫抑制治療などが必要になりますが、移植後6ヶ月以内に約20%で発生する合併症を乗り越えると、その後は長期にわたって元気に暮らせます。
(5)門脈圧亢進症になると、側副血行路(シャント)ができて、肝臓を介さずに血流が心臓に還っていきます。
(6)すると、食道静脈瘤や胃静脈瘤ができ、それらが破裂すると大出血を起こし吐血や下血をし、命にかかわることになります。
(7)側副血行路が形成されると門脈に流入する血液が全身に入り、感染症が起こりやすくなったり、肝臓が萎縮したりします。
(8)また、アンモニアを含んだ血液が直接心臓に入り、頭にめぐると「肝性脳症」が起こりやすくなります。
(9)さらに、腸管から吸収されたグルコースも肝臓を素通りし、血糖のコントロールも不良になります。
2024年12月19日 9:02 カテゴリー:書籍紹介