書籍紹介「肝臓のはなし」竹原徹郎 著
「肝臓のはなし」
竹原徹郎 著 ISBN-978-4-12-102689-7
現代の日本人は、4~5人に一人の割合で、肝機能に異常があるとされています。肝臓は「予備能」と「再生能」を有する「代謝の中枢臓器」です。今回は「肝臓の仕事」を、次回は「肝臓の主な病気」を取り扱います。
Ⅰ 肝臓の仕事
1.肝臓の血管の特徴
(1)臓器は流入血管として動脈(心臓に始まり毛細血管で終わる)、流出血管として静脈(毛細血管に始まり心臓で終わる)をもっていますが、肝臓だけはそれ以外に門脈をもっています。
(2)正常な肝臓は、肝動脈からの血流が3割に対して、門脈からの血流が7割となっています。
(3)門脈は具体的には、消化管や脾臓の毛細血管から始まり、肝臓の毛細血管で終わりますので、圧力が低く酸素の量も少なめです。その代わり、大量の栄養素を含んでいます。
2.グリコーゲンの合成と分解
(1)門脈からグルコースを取り込み、肝細胞自身のエネルギー源として利用する一方で、余分なグルコースはインスリンの作用によりグリコーゲンとして肝細胞と筋肉だけに蓄えます。
(2)血液中のグルコースが少なくなると、筋肉中のグリコーゲンは分解されて、筋肉のみ使用されます。一方で、肝臓のグリコーゲンはグルコースに分解され血液中に放出し、特に脳(90g/日)と赤血球(45g/日)で使用されます。
(3)肝臓は重さにして50~70gをグリコーゲンとして蓄えることができますので、一日三食の食生活は、グリコーゲンの蓄積・分解のサイクルに基づいています。
(4)飢餓状態になっても、脳が活動できるのは、肝臓がアミノ酸や乳酸など糖質以外からグルコースをつくり出す「糖新生」によります。
3.脂質の利用
(1)食間期にグルコースが枯渇すると、皮下や内臓周囲に溜まっている中性脂肪が分解され、脂肪酸を肝臓が取り込みエネルギーにします。
(2)取り込まれたエネルギーの多くは、肝細胞自身のエネルギーにならず、最後まで分解されないで、水に溶けるケトン体という中間産物になり、血液中に放出され、他の臓器の栄養源になります。
(3)過剰なグルコースの摂取は、容易に脂肪に転換されますが、反対に、脂肪をグルコースに転換することはできません(グリセロールを除く)。
(4)放出するよりもつくるほうが優勢になると、肝臓の中に中性脂肪が脂肪滴として蓄積されます(脂肪肝)。
(5)肝臓がつくるコレステロールは単なる悪者ではなく、細胞膜、ステロイドホルモン、ビタミンD、胆汁酸などの原料になります(医学的にはコレステロールが少ないほうが問題)。
4.タンパク質の合成
(1)血液中のタンパク質の半分以上は肝臓がつくる「アルブミン」で、血管の中に水を保持する作用をもっています。
(2)アルブミンが低下すると、血管外に水分が漏れて、浮腫や腹水の原因になります。
(3)さらに、肝臓は「凝固因子」という血液を固めるタンパク質群をつくっています。
(4)出血すると、まず「血小板」が凝集して傷口に蓋をします(一次血栓形成)。次に、血液中の「凝固因子」が活性化し血液を固めます(二次血栓形成)。
(5)前記以外にも、タンパク質の「補体」や炎症が起きると上昇するC反応性タンパク質(CRP)などもつくります。
5.尿素の合成
(1)三大栄養素は、炭素(C)、水素(H)、酸素(O)でつくられていますが、タンパク質(アミノ酸)だけは、これ以外に窒素(N)を含んでいます。
(2)炭素は二酸化炭素として、水素は酸素と水として、それぞれ肺と腎臓から排出されます。
(3)一方、窒素からは、有害なアンモニア(NH3)が絶えず生成されます。そこで、肝臓は「尿素サイクル」によってアンモニアを無害な尿素に変換し、血流に乗って腎臓から排泄されます。
2024年12月5日 9:10 カテゴリー:書籍紹介