書籍紹介「疲労とはなにか」近藤一博 著

「疲労とはなにか」
近藤一博 著 ISBN978-4-06-534385-2

疲労には、仕事や運動で発生して1日休めば回復するような「生理的疲労」と何カ月も続き、少々休んだくらいでは回復しない「病的疲労」があります。著者は、この両者ともウイルスに由来していると主張しています。なお、今回は「生理的疲労」を、次回で「病的疲労」を取り扱います。

Ⅰ 生理的疲労
疲れたという感覚が「疲労感」(休養の願望)で、その原因となる「体の障害や機能低下」が疲労です。それぞれのプロセスは以下の通りです。
1.疲労感と疲労
(1)疲労感
労働や運動などの負荷→eIF2α(真核生物翻訳開始因子)のリン酸化→タンパク質の合成阻害・HHV-6の再活性化→バイパス経路によるATF4タンパク質の合成→炎症性サイトカインの脳への伝達→疲労感
(2)疲労
バイパス経路によるATF4タンパク質の合成→ATF3タンパク質の合成→細胞のアポトーシス→疲労

2.疲労の測定
(1)HHV-6の特定
ヒトに感染するヘルペスウイルスの中で6番目に発見されたウイルス。ほぼすべての赤ちゃんが親や兄弟から感染し、突発性発疹(高熱)を起こしたあと、ほぼ100%体内で、一生涯、潜伏感染を続けます。
(2)再活性化
HHV-6はeIF2αのリン酸化によって再活性化し、他の宿主に移動するために唾液中を移動します。
(3)測定
放出されたHHV-6の量を測定することで疲労度が測定可能です。

3.疲労感の落とし穴
(1)ストレスが疲労感を抑制する
この見出しを見て違和感を覚える人は多いと思いますが、真相は以下の通りです。
・HPA軸(視床下部-下垂体-副腎)により産生される副腎皮質ホルモン(コルチゾール)は、炎症性サイトカインの産生を抑制するので「疲労感」を弱めます。
・これらの反応に並行して、視床下部は交感神経を刺激し、交感神経の末端や副腎髄質からアドレナリンやノルアドレナリンを放出し、「疲労感」を抑制します。
・しかし、この状態は、「疲労感」を抑制するだけで、「疲労」すなわちeIF2αのリン酸化による細胞障害は蓄積され、過労死などの原因となります。
・また、ストレス応答の「反応期」「抵抗期」につづく「疲憊期」ではHPA軸の細胞は疲れ、副腎皮質ホルモンが分泌されなくなり、炎症性サイトカイン濃度がさらに上昇します。
(2)ドリンク剤が疲労感を抑制する
・含有する抗酸化成分は酸化ストレスを抑制することが期待されます。
・マウスによる実験では、肝臓のeIF2αのリン酸化は抑制(炎症性サイトカインの抑制)され、脳は「疲れていない」と判断しました。
・しかし、肝臓以外の組織ではeIF2αのリン酸化は全く抑制されず、突然死を招く可能性があります(命の前借り)。
(3)疲労感のマスク
・疲労感は好きでやっているのか、嫌々やっているかが重要な要素となります。
・好きでやっていると「疲労感がマスク」されて、心身の疲労に気づかず無理をして心筋梗塞や脳卒中などで急死する危険性があります。

4.疲労回復の方法
生理的疲労のもとはeIF2αのリン酸化ですので、eIF2αをリン酸化させないのが最も根本的な方法になります。
(1)ビタミンB1の継続的摂取(不足すると回復力が低下)
豊富に含まれる食材は肉と小麦、より具体的には豚肉の赤身、うなぎ、たらこ、全粒粉パン、ごま、えんどう豆など。なお、飲酒量の多い人ほどビタミンB1は不足します。
(2)以下の栄養成分の摂取
・玄米に含まれるガンマ・オリザノール
・タマネギやリンゴに多く含まれるケルセチン
・マスやカツオの筋肉、鶏の胸肉に多いアンセリン
(3)軽い運動
エアロバイクを無理のないペースで毎日1時間程度こぐなどの軽い運動

5.生理的疲労が病的疲労に移行
(1)生理的疲労が過度に強くなると、病的疲労に移行することがあります。
(2)いずれの疲労かの判断は唾液中のHHV-6を測定して値が多ければ生理的疲労、少なければ病的疲労を疑うべきです。

2024年9月19日 9:03  カテゴリー:書籍紹介

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