書籍紹介「カオスなSDGs」酒井敏 著
「カオスなSDGs」
酒井敏 著 ISBN978-4-08-721259-4
近年声高に叫ばれる「SDGs」や「サステナブル」という言葉。環境問題などの重要性を感じながらも、レジ袋有料化や紙ストローの導入、SDGsバッジなどの取り組みに、モヤモヤしている人は少なくないでしょう。
国連の定義によれば、「持続可能な開発」とは「将来の世代がそのニーズを満たせる能力を損なうことなしに、現在のニーズを満たす開発」のこと。
SDGsは未来のために「いま」を犠牲にしろと言っているわけではなく、現在に生きる私たち自身のニーズを満たしながら、将来世代のニーズも満たしましょうという話です。とりわけ日本の場合、SDGsといえば脱炭素や脱プラスチックといった環境問題ばかり注目されますが、17の目標を見ればわかるとおり、そこには「環境」のほかに「経済」「社会」という大きな柱があります。これら3つの分野での持続可能性をどれも高めようとすれば、必ずどこかで優先順位をめぐるケンカが起きます。どこかで「キレイゴト」を引っ込めて、「大人の事情」に基づく調整が必要になります。
例えば、プラスチックの場合、完全なリサイクルにこだわらず、少しずつ品質を下げて、同じ素材を何度か使い、最後はエネルギー源として石油の代わりに燃やして熱回収するのが、一番サステナブルでしょう。
複雑系の研究の「カオス」では、因果律は存在していても、現在の状態から未来を予測することはできないし、過去にあったはずの原因を特定することはできません。
実際、IPCCも温暖化の予測を外しました。1990年代に報告されたIPCCのシミュレーションによれば、温暖化は加速度的に進むはずでしたが、1998年から約15年間、気温の上昇が停滞し、この「ハイエイタス」現象をIPCCは予測できませんでした。
「カオス」は「混沌」という意味ですから、秩序とは無縁のものに思えますが、じつはそうではない。未来は予測不能だけれども、そこにはある種の秩序が生まれてしまうのです。
ですから、SDGsの17の「ゴール」も、目指すべき正解では決してありません。
いまの私たちが少しでも楽しく幸福に暮らせるよう、破滅的な事態の発生を先送りにして、結果オーライで解決できるよう、時間稼ぎをすることはできるでしょう。
その意味で、SDGsは目指すべきゴールではなく、私たちが生き方を見直すためのスタートラインなのだと思います。
元京大変人講座教授SDGsにモヤモヤする!!
2023年11月16日 9:06 カテゴリー:書籍紹介