書籍紹介「腸のすごい世界」國澤純 著

「腸のすごい世界」
國澤純 著 ISBN978-4-296-00128-6

生まれた直後の身体的な特徴の多くは、遺伝子によって決められています。しかし、多くの方が考えている以上に、その後の身体的な特徴の変化は腸内細菌の影響を強く受けています。
Ⅰ 腸内細菌がつくる代謝産物=ポストバイオティクス
1.「短鎖脂肪酸」(代表的なポストバイオティクス)
(1)体に有益に働く短鎖脂肪酸は、酪酸、酢酸、プロピオン酸の3つ
(2)短鎖脂肪酸が全身に寄与する主な働き
・免疫を調整する。
・血糖値を一定に保つインスリンの分泌を調整する。
・脂肪細胞の肥大化を抑制して、肥満を予防する。
・炎症を抑制する物質を作り、生活習慣病などの予防と改善。
(3)乳酸菌が生み出すEPS(菌体外多糖)
・難消化性のため食物繊維と同じように有用菌のエサになる。
・免疫機能を高めてウイルスなどから体を防御する。

2.腸内での「菌のリレー」
(1)分解されずに腸に送られた食物繊維を分解する糖化菌(納豆菌)によってまず糖を作る。
(2)糖を材料に、乳酸菌は乳酸を、ビフィズス菌は乳酸と酢酸を、別の菌の働きにより、酪酸とプロピオン酸が作られる。
(3)以上の「菌のリレー」は、ビタミンB1によってサポートされる。
3.腸内細菌のエサは「ヒトには消化できないもの」
(1)食物繊維には水に溶けにくい不溶性食物繊維と水に溶けやすい水溶性食物繊維がある。
(2)不溶性食物繊維は便のカサを増やしたり腸を刺激してぜん動運動を促す。
(3)一方、水溶性食物繊維の多くは、腸内細菌のエサになる。
(4)さらに、難消化性オリゴ糖(フラクトオリゴ糖・大豆オリゴ糖・ガラクトオリゴ糖)と難消化性でんぷん(豆類・イモ類・冷や飯)も腸内細菌のエサになる。
(5)100歳以上の元気な高齢者の腸内には短鎖脂肪酸を生み出す菌が多く、特に酪酸菌が多い(2017年京丹後市での調査)。

Ⅱ 「腸漏れ」と老化・生活習慣病
腸管は、無数の「絨毛」のヒダに覆われ、その表面は「上皮細胞」がスクラムを組むようにぴっちりと接合し、異物を体内に入れない関門となっています。
しかし何らかの原因で、そのスクラムが緩んで、ヒダの隙間から異物が侵入することがあります。それを、「腸漏れ(リーキーガット)といい、初期症状としては「疲れやすさ」や「だるさ」を感じたり、「微熱が続く」ことがあります。
1.腸漏れから始まる負の連鎖(2つの経路)
(1)有害菌の侵入→免疫のオーバーワーク→全身の炎症→糖尿病、動脈硬化、がん、肌荒れ、老化など
(2)酸素の侵入(有害菌は好み、有用菌は嫌う)→腸内の環境悪化→さらなる腸漏れの加速

2.腸漏れの「4つの原因」
(1)老化
加齢とともに、腸の機能が低下し、腸漏れが起こりやすくなる。
(2)有害菌の増殖
有害菌は酸素を好むが、一般に酸が嫌い。腸内は通常は弱酸性が保たれている。有用菌が減ると酸性環境が保てなくなり有害菌が増殖する。
(3)短鎖脂肪酸を生み出す有用菌のエサ不足
有用菌のエサとなる食物繊維、難消化性オリゴ糖及び難消化性でんぷんの供給が不足すると短鎖脂肪酸が作られなくなる。
(4)腸管の外壁を覆う粘液の減少
腸管の外壁はネバネバした「ムチン」で覆われている。しかし、食物繊維が不足すると、腸内の菌はムチンを食べる。

腸に棲む未確認生命体があなたの健康と未来を決める!!

2024年1月18日 9:02  カテゴリー:書籍紹介

書籍紹介「思い出せない脳」澤田誠 著

「思い出せない脳」
澤田誠 著 ISBN978-4-06-531513-2

Ⅰ 増築された脳
脳は原始的な脳に順次増築して作られています。
1.脳幹・大脳基底核(生命の維持)
原始的で生物として自分が生き残り、子孫を残すための機能を担当
(1)脳幹…呼吸や心拍・体温・発汗など自律神経による身体反応
(2)大脳基底核…食欲や性欲、なわばり、攻撃、危険回避など本能を司る
2.大脳辺縁系(情動と記憶を制御)
恐怖や怒り、嫌悪、愛着、喜び、悲しみなどの情動と記憶を司る
(1)扁桃体…主に不快な情動を司る
(2)側坐核…主に快の情動を司る
(3)海馬…短期記憶の形成とインデックスによる記憶の呼び出しを司る
なお、日常の動作、運動や楽器演奏などの手続記憶は海馬ではなく、小脳や大脳基底核が担っています。
また、ワーキングメモリも海馬ではなく、大脳新皮質の「前頭前野」が担っています。
3.大脳新皮質(理性・事実認識)
最後に発達し、脳の一番外側を覆い理性や将来の計画を司る

Ⅱ 記憶が作られていくときの情報の流れ
視覚、聴覚、嗅覚、触覚など「感覚器」から情報が入力され、その後以下のように情報が流れて記憶が形成します。
1.脳の中心部にある「視床」に生の情報が集められ、そこで情報の交通整理が行われ、情報の重みづけをする「大脳辺縁系」と情報の処理をする「大脳新皮質」(感覚野)に振り分ける。
2.その後、「大脳辺縁系」から情報の重みづけにより、記憶を一時保管する「海馬」と情報を統合し記憶の元を作る「大脳新皮質」(連合野)に情報が流れる。
また、感覚野からも連合野に情報が流れる。
3.次に、連合野から「海馬」に情報が流れる。
4.最後にインデックスを作り、一時記憶の「海馬」から「大脳新皮質」(記憶の長期保管)へ情報が流れ、長期記憶が形成される。

Ⅲ 長期記憶が形成されない3つのパターン
1.そもそも記憶を作ることができなかった
記憶が作られない場合、それが一般的なものでなければ病気に相当し、アルツハイマー型認知症や海馬に障害を負った場合などがあります。
2.情動(扁桃体・側坐核)が働かず、重要な記憶と見なされなかった
(1)「情動」は感情の一種で快・不快や喜怒哀楽、愛憎などの刺激に対して、すぐに湧き起こり、短い時間だけ続く身体反応で客観的に観測が可能です。
(2)感情にははっきり言葉に表わせず、比較的長く続く心の状態の「気分」もありますが、客観的に観測できません。従って、脳科学分野の対象になじみません。
3.睡眠不足で記憶が整理されなかった
起きている間にも記憶が整理・編集・定着は行われますが、眠っている時は、外部からの情報が少ないので、それらに集中できます。従って、睡眠不足はそれを妨げることになります。

Ⅳ 抑制が働いて記憶が引き出せなかった
1.神経細胞には神経伝達物質を放出し、周囲の細胞を活性化する興奮性神経細胞と逆に、周囲の細胞の活動を抑制する抑制性神経細胞があります。
2.抑制性神経細胞は興奮性神経細胞の間に交じっていて、特に大脳新皮質に多い。
3.1つの記憶は複数の神経細胞のネットワークに保管されています。
4.脳は思い出したい情報と関係のない神経細胞が活性化しないように「周辺抑制」というメカニズムを持っています。
5.抑制性神経細胞は伝達物質(GABA)を放出し、最初に活性化した細胞を含めて周りの細胞を抑制します。
6.そうすると、例えば、人名の記憶を担当している神経細胞が、その抑制されたネットワークの中に存在すると、ますます人名を思い出せなくなります。

Ⅴ 保管された長期記憶が失われる
1.使わない記憶は必要ないと判断して、ネットワークを作るのに必要なシナプスのスパインをミクログリア(脳内のマクロファージ)が食べます
2.その結果、ネットワークのつながりが弱くなり、最終的に記憶が失われます。

多くの記憶は無意識のうちに勝手に形成される!
頭の中には「ある」のになぜ出てこない?記憶のミステリー

2024年1月4日 9:04  カテゴリー:書籍紹介

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