書籍紹介「健康不安社会を生きる」 飯島裕一 編著
健康不安社会を生きる
飯島裕一 編著 ISBN978-4-00-431211-6
昨今の健康ブームの背景に人々の健康志向や健康不安に便乗したり、あおったりするような健康情報、テレビの情報娯楽番組、健康ビジネスがあることは事実だろう。「怪しげな健康情報、宣伝文句、健康商法に安易に振り回される市民の姿勢にも問題がある」との指摘がある。だが、異常とも言える社会現象の底にあるものは、そう単純ではなさそうだ。むしろ、効率化・スピード化・利便性をもとめ、経済優先の商業主義を柱に慌ただしく動き続ける現代疲労社会そのものの中に、内在しているのではないか。
健康ブームは現代社会の「負の影の部分」を映す鏡と考えられる。私たち現代人は地道に手間暇を掛けて健康になるという「回りくどい方法」に、ついていけなくなっている。なるべく早く結果が出る安易な健康法を、お金で買い求める傾向が強い時代である。さらに、高齢者、健康を害した人、失業者ら弱者への医療・福祉の切り捨て、個人に対する健康の義務化(健康増進法)、ウエスト径の値などに論議があるメタボリック症候群に着目した特定健診の導入、行き過ぎた医療費削減など、一連の社会政策が「健康であらねば」という強迫的な意識を助長し、健康不安に大きな影を落としているのではないだろうか。一方で医療への不信や疑問から、近代医療を敬遠。怪しげな一部の民間療法に走る人も見られる。
本書は11名の識者へのインタビューを通し、ブームの底にあるものを見据え「健康とは何か」を問い直す素材となり、ご自身の健康観を見つめ直す「よすが」になれば幸いであると編者は願う。
2012年11月8日 9:40 カテゴリー:書籍紹介
書籍紹介 「精神科医が狂気をつくる」 岩波 明 著
精神科医が狂気をつくる
岩波 明 著 ISBN978-4-10-470104-9
医療技術の進歩によって大きな恩恵をうけているにもかかわらず、医薬品や医療行為に関する一般の人たちの不信感は根強い。特にクスリに対する感情的な拒否感は、知的レベルの高い人たちにおいてもよくみられる。その原因の一部として、医者や製薬業界、あるいは役所は都合の悪い事実は隠すものだという確信に由来していると思われるが、確かにそういう傾向は否定できない。けれども、もっと重要な点は、はっきりした根拠のない「ナチュラル志向」だ。この点は「エコ」をしきりに訴える「市民運動」ともかなりの共通点をもっている。医療においても環境問題においても「身体に優しい」とか「環境に優しい」などという意味不明で気味の悪い言葉が疑問もなく唱えられている。
ところで、現在の精神科診療における治療法の基本は、他の診療科と同様に薬物療法です。そして、精神科においても、薬物療法の評判は必ずしもよくない。根拠のないクスリへの嫌悪感を示す人がいる一方、積極的に薬物療法を批判し、食事療法などの自然志向の代替療法を推奨する者が後を絶たない。
本書では、精神疾患に対する非薬物療法とその関連領域について、具体的な症例を元にして科学的な視点からそれらの「ウソ」を明らかにし、誤った治療法や妄想とも言える治療法によって取り返しのつかない不幸や精神疾患の重症化を生んでいる実態を述べている。
もちろん「医療」の枠の中にある治療法がすべて「セーフ」というわけではなく、数多くのウソは存在する。本書では、医療の名の下に行われている誤った治療法や考え方についても言及している。さらに精神疾患には、最新の治療を工夫しても治るものと治らないものがあるのも現実で、その現実にも十分に触れた上で、精神医療の現場について臨床例を中心に紹介している。
医療現場から医師たちの大罪を告発する渾身の著!!
2012年11月1日 8:32 カテゴリー:書籍紹介