書籍紹介「人体最強の臓器 皮膚のふしぎ」椛島健治 著
「人体最強の臓器 皮膚のふしぎ」
椛島健治 著 ISBN978-4-06-530387-0
皮膚はさまざまな能力を併せ持った「スーパー臓器」です。有害な化学物質・紫外線や病原体の侵入を防いだり、体内の水分蒸発を最小限に抑える防御装置であるとともに、人体最大の免疫器官であり、無数のセンサーが埋め込まれた感覚器官でもあります。
1.皮膚の構造
皮膚は外から内に向かって、表皮・真皮・皮下組織という3種類の異なる組織が積み重なっています。
(1)表皮
95%は表皮角化細胞(基底層→有棘層→顆粒層→角質層)が占め、残り5%はランゲルハンス細胞(マクロファージの一種)、メルケル細胞(接触センサー)、色素細胞(メラニン合成)などです。
(2)真皮
80%は強度を保つ膠原線維(コラーゲン)が占め、残りは、弾力を保つ弾性線維、血管、リンパ管、免疫細胞などです。
(3)皮下組織
エネルギー源となる脂肪を貯える貯蔵庫としての役割と、外部からの物理的な衝撃を緩和する吸収剤および保湿機能を有しています。
2.免疫器官
(1)表皮
角質層などの物理的な防御機構を突破した異物を捕らえて、適切な免疫応答を誘導するランゲルハンス細胞が分布しています。
(2)真皮・皮下組織
樹状細胞、マクロファージ、T細胞、B細胞、肥満細胞(マスト細胞)、好中球、好酸球などの役者が揃っています。さらに、近年発見された自然免疫にかかわる自然リンパ球も存在しています。
3.感覚器官
(1)かゆみ
かゆみには、皮膚刺激があってかゆいと感じるものと、脳がかゆいと感じて皮膚がかゆくなる2種類がありますが、かゆみが生じるメカニズムの詳細はわかっていません。また、痛みとかゆみはC線維の中でも、それぞれ独自の神経線維を介して伝達することが明らかになっています。
(2)温度
温度を感じる受容体を温度感受性TRPチャネルと呼びヒトには9種類発見されていますが、多くはカプサイシンやメントールのような植物由来の物質によって活性化されたり、抑制されたりします。なおTRPは単に温度センサーというだけにとどまらず、がんやパーキンソン病、心筋症、皮膚乾燥症などさまざまな疾患に深くかかわっていることもわかってきました。
以上の知識を前提として、著者の専門とするアトピー性皮膚炎、皮膚の老化とアンチエイジング、未来の皮膚医療などについて最新の研究成果も紹介されています。
2023年6月15日 9:08 カテゴリー:書籍紹介
書籍紹介「とれない「痛み」はない」柏木邦友 著
「とれない「痛み」はない」
柏木邦友 著 ISBN978ー4ー344ー98673ー2
人の身体は50歳を過ぎると、あちこちに「痛み」が出てくるもの。日本人は「我慢は美徳」とばかりに耐えようとするが、「痛み」は生活の質を落とすだけではなく、深刻な病気のサインかもしれないので、放っておくのは禁物である。
1.「痛み」を我慢してはいけない7つの理由
(1)放っておくと、どんどん強くなる「ウインドアップ現象(中枢感作)」
(2)痛くて寝不足になると、「痛み」はより強くなる
(3)「痛み」をとらなければ、イライラは治まらない(大脳辺縁系への刺激)
(4)「痛み」を我慢していると「異痛症」のリスクも(痛みを感じる閾値が下がる)
(5)神経が「勘違い」をして痛みの原因がある部位から離れたところでの「関連痛」が発生
(6)強い「痛み」は大動脈解離や心筋梗塞を招く
(7)採血や点滴も、痛かったらすぐにスタッフに伝える(神経損傷のリスク)
2.痛みを感じる仕組みと人体に備わった痛みをとる「仕組み」
痛み信号は脊髄神経から脊髄を通って、脳に到着します。人体に備わった痛みをとる仕組みは「下行性疼痛制御系」と「手当て」の2つがあります。前者は、痛みの信号が脳に到達すると脳が痛みを抑制する伝達物質を脊髄に届け、痛み信号を軽減します。一方、後者は痛み刺激を伝わりにくくします(ゲートコントロール理論)。
3.各種鎮痛剤とその特徴
(1)NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)…ロキソニン、ボルタレン、バファリンなど
血管を拡張し、痛みや熱などを引き起こす、体内物質のプロスタグランジンの分泌を抑制する。
(2)アセトアミノフェン…カロナール
下行性疼痛制御系の働きを活性化し鎮痛効果を発揮する。
(3)抗うつ薬…セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)
痛みの信号を抑制したり、下行性疼痛制御系の働きを強める。
(4)医療用麻薬…モルヒネ、フェンタニルなど
前記(1)~(3)には「これ以上はいくら飲んでも効かない」という「天井効果」があるが、これには投与すればするほど効果がある。
4.痛みの国際的分類
(1)侵害受容性疼痛
けがや病気などで身体がダメージを受けて生じる痛み
(2)神経障害性疼痛
物理的に痛み信号を生じさせるものがないのに、神経そのものがダメージを受けて生じる痛み(帯状疱疹の神経痛や腰椎椎間板ヘルニアなど)
(3)痛覚変調整疼痛(原因がはっきりしない痛み?)
5.無痛分娩のすすめと麻薬の方法
(1)無痛分娩のすすめ
欧米では無痛分娩は広く行われていますが、国内では2020年の厚生労働省の調査では、8.6%という低率です。危険性が高いとか痛みに耐えてこそ母性が生まれるなどの誤解があるようです。
お母さんが痛みを感じず、リラックスして力が抜けているほうが、お産はスムーズになります。
(2)麻薬の方法
いくつかの種類がありますが、ほとんどの病院では「硬膜外鎮痛」が用いられています。背骨にある硬膜という膜の外側に痛み止めを入れることで痛みを抑える方法です。
痛みをとる手段には多様性があり、「終末期」の苦しみももう怖くない!!
2023年6月1日 9:04 カテゴリー:書籍紹介
書籍紹介「孤独という病」池田清彦 著
「孤独という病」
池田清彦 著 ISBN978ー4ー299ー03667ー4
生物というのは本能に従って、結果的に種の継続が可能になるべく、それぞれの環境に則して群れになったり、単独行動を選んでいたりするだけなのだ。従って、孤独といえば、単独であるか群れであるかという物理的な違いによる孤独である。しかし、人間は他の動物と異なり物理的な違いによって孤独という心的な状態になるわけではなく、他者との精神的なつながりの有無やその密度などで孤独を感じている。
そして、どうやら最近では「孤独は死に至る病である」と認識されるようになっている。ところで、なぜ孤独だと死亡リスクは高まるのだろうか。
医学的には、自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスが崩れ、ストレスホルモンとして知られる「コルチゾール」が副腎皮質から分泌され続け、心身が不調になるからだ。つまるところ、これらは人間という生物がもともと孤独に弱いということの証でもある。人間にとって孤独とは何か、ということを生物学の視点で突き詰めていくと、私たち人間の「意味を求めなければ気がすまない」というべき病へとたどり着く。生きることも含めてあらゆることに「意味」があると錯覚して、命がある限りその意味を求め続けてしまう。人類もかつては生きる意味などまったく気にしなかったはずだが、社会が発達したことで、生き方に多様性が生じて選択肢が多くなり、意味を求める病が発生したのだ。
つまり、人間が孤独になって感じる不安は、「自分は社会(群れ)の役に立っていないのではないか」という機能主義に付随した不安であることが多い。
従って、ネコと同じように自分の気持ちのおもむくままに生き、食事をし、楽しいことをして死んでいく。これが正しい人生だ。誰かが意図的につくり出した「意味」などという大嘘に惑わされないで、国家や社会のためではなく、自分のためにいちばん心地よい行動をする。実はこれこそが、最も効果的で、最も根本的な「孤独対策」なのだ。
生物学者が生存戦略の視点から説く、現代人のための孤独の飼い慣らし方!!
2023年5月18日 9:14 カテゴリー:書籍紹介