書籍紹介「70歳までに脳とからだを健康にする科学」石浦章一 著
「70歳までに脳とからだを健康にする科学」
石浦章一 著 ISBN-978-4-480-07607-6
本書は、健康で長寿になれる方法を、生命科学の最近の知見に基づいて解説しています。
1.認知症(特にアルツハイマー病)
(1)認知症には、主にアルツハイマー型(63%)、血管性(15%)、レビー小体型(12%)、前頭側頭型(数%)があります。
(2)アルツハイマー病の特徴は①老人斑(アミロイドβタンパク質)、②神経原線維変化、③脳の萎縮の3つです。
(3)遺伝子変異(候補は3つ)で起きる若年性アルツハイマー病は全アルツハイマー病の1%です。
(4)このタイプは、優性遺伝病なので、変異遺伝子を1つ持っていると必ず発症します。従って、子供は50%の確率で発症します。
(5)老人斑(アミロイドβタンパク質)はアミロイド前駆体(APP)にあるAβ部分の先端で切断されると脳内に沈着します。
(6)普通の人がアルツハイマー病にならないのは、Aβ部分の真ん中で切断されるため、Aβタンパク質が沈着しないからです。
(7)実はダウン症の脳にも10代から老人斑が蓄積することが分かってきました。
(8)全ての人が持っているアポE(アポリポタンパク質E)遺伝子には、E2型、E3型及びE4型がありますが、E4型を2個持っている人は、日本人に一番多いE3型を2個持っている人の11.6倍もアルツハイマー病になりやすい。
(9)さらに、アポE4を持つ人は頭を打つ(ボクシング、アメフト、ラグビー、サッカー、プロレス)と特にアルツハイマー病になりやすい。
(10)加えて、アポE4を持つ人は、脳卒中からの回復が遅いことも分かってきました。
(11)そこで、アポE4は実はアルツハイマー病の素因遺伝子ではなく、脳の脆弱性の指標となる遺伝子ではないかと考えられるようになっています。
(12)一方、アポE2型を持っている人は100歳以上の長寿者に多い。
2.肥満とダイエット
(1)摂取した食料の利用効率は個人差があり、利用効率がよい人は太り、逆に、利用効率が悪い人はなかなか太りません。
(2)最大酸素摂取量で測定される基礎代謝(消費エネルギーの60%)は筋肉量にほぼ比例します。従って、筋肉量も運動量も減っている高齢者は太りやすくなります。
(3)タンパク質も糖質も過剰摂取すると脂肪として蓄積され、一方、使う場合は、体内に蓄積された糖質(筋肉・肝臓)が最初に使われ、次にタンパク質、そして最後に脂肪が使われます。
(4)減量すると臓器の重量も落ちます。一番落ちるのは腎臓、その次が肝臓、心臓、筋肉の順になります。従って、ダイエットは上手に行わないと危険な行為になります。
(5)摂取エネルギーの50~55%は炭水化物で摂取するのがベスト。それ以下でも以上でも死亡リスクが上がります。
3.筋肉と体力
(1)体力にはからだを動かす体力(運動能力)と測定が難しいからだを守る体力(免疫力)があります。
(2)骨格筋などの筋細胞が壊れると多核細胞の筋繊維の横にある金衛星細胞が分裂して、筋細胞が作られます。
(3)加齢により、白筋(速筋)の比率が増え、持久力がなくなりますので、持続的な運動で、赤筋(遅筋)を増やす必要があります。散歩やジョギングと同時に階段を上ることです。
(4)母乳のように必須アミノ酸9種類が全て揃っているのは肉、魚、卵、牛乳、大豆などです。
(5)タンパク質ばかり摂取して、炭水化物が少ないと筋肉は付きません。エネルギーの半分は主食で摂りましょう。
(6)豚肉や牛肉の脂肪は高温でないと溶けませんが、鶏肉の脂肪は低温で溶けおいしいので、お弁当に鶏肉のから揚げが多く使われます。
(7)ふとももが太いほど死亡率が下がり、細いと死亡率が上がります。太ももが太いということは運動をしている結果です。
本書では、以上のほかに、脳やバイオマーカーなどの最近の生命科学の話題と最新治療の話題についても解説してます。
科学でナットクの新常識!!
2024年11月21日 9:03 カテゴリー:書籍紹介
書籍紹介「心の病気はどう治す?」佐藤光展 著
「心の病気はどう治す?」
佐藤光展 著 ISBN978-4-06-53469-4
本書は、精神医療界のオールスターチームによるメンタル向上のためのガイドブックです。回復に役立つ知識から、社会的課題を解消するヒントまで、ありったけの情報が盛り込まれています。
(1)依存症「ヒトは生きるために依存する」(松本俊彦先生)
最も有害なアルコールが野放しになっていることからも分かるように、よい薬物、悪い薬物という分け方に科学的な根拠はありません。ですが、薬物の悪い使い方をしている人は、ほぼ間違いなく他に困りごとを抱えています。『困った人』は『困っている人』なのです。日本の精神科は薬物療法偏重なのは、薬が最も低コストで、時間をかけずに診療が終えられるからです。
(2)発達障害「精神疾患の見方が根底から変わる」(原田剛志先生)
表面的な症状だけで病名を付けて薬を出していたら治るものも治りませんよ。どんなタイプの人が、どんな状況の時、何をきっかけに、どういう不適応を起こしたのか、などを聞かないと正しい診断はムリです。もともとの体質がすごく大事だし、生活環境も大事です。因果関係を把握しないで治療なんかできるわけがない。まずは医者たちを変えないと、誤った治療で搾取される患者たちは減らせない。
(3)統合失調症「開かれた対話の劇的効果」(斎藤環先生)
世界中の学者が50年以上も研究してきて、いまだに統合失調症もうつ病も、発達障害すらもバイオマーカーがないのです。無理なことをやらなくても、オープンダイアローグの手法で治療できるわけですから、もう少し、精神療法の力を信じてもいいのではないかと思います。
(4)うつ病・不安症「砂粒を真珠に変える力」(大野裕先生)
認知行動療法は『元気があるからやれる』のではなく『やるから元気が出る』という見方をします。元気が出るまで待っていては、いつまでも元気が出ないかもしれない。興味を持ったことは、考え過ぎずにやってみる。すると、やっているうちにどんどん面白くなって元気が湧いてきます。
(5)ひきこもり「病的から新たなライフスタイルへ」(加藤隆弘先生)
病的ひきこもりの支援では、大事なのはポジティブな面にまず目を向けることです。ひきこもらざるをえない心境に共感を示し、心の中に安心してひきこもれる場所を作ってあげることが治療の要です。ひきこもっていても、本人が自分らしく生きられるようになればよいのです。オンラインで完結できる仕事はますます増え、仮想空間は急速に拡大しています。
(6)自殺「なぜ自ら死を選ぶのか」(張賢徳先生)
自殺を考える人の心の中は、絶望感に満ちています。しかし、絶望という捉え方は大雑把過ぎて、周囲はどう働きかけたらよいのかわかりません。絶望感の中身は疎外感とお荷物感でそれが自殺行動に関係しています。この疎外感とお荷物感は、周囲のサポートを充実させることで緩和できるはずです。しかし明らかに病的スイッチが入った時は周囲の声もこころに届きません。そんな時は、医療機関の受診を促すことが大事です。
あきらめるのはまだ早い!!
名医に聞いた希望のガイドブック
2024年11月7日 9:01 カテゴリー:書籍紹介
書籍紹介「老いの失敗学」畑村洋太郎 著
「老いの失敗学」
畑村洋太郎 著 ISBN978-4-02-295251-6
失敗は、すでに経験したものでも不注意などによっても起こりますが、多くは未知の問題に対処するときに起こります。そして、老いもまた、それぞれの人にとって初めて経験する未知の問題です。そこで、失敗学の大家である著者は失敗学の知見を老いの問題への対処にも活かせるのではないかと考えました。
1.「老い」と「失敗」の共通点
両者の共通点は、人が生きて活動をしているかぎり、完全に避けることが不可能であることと、当人が望んでいないということです。また、両者には客観視に加えて、主観視が必要であるだけではなく、「局所最適・全体最悪」になる可能性が潜んでます。
2.「悪い老い」に気をつける
悪い老い方の象徴としてすぐに浮かぶのは「老害」です。老害の人の特徴としては、
(1)自分の思いは正しく、他人の意見は誤っている。
(2)自尊心が高く、我がままで、沸点が低くて怒りっぽい。
(3)自分のが価値観をまわりに押しつける。
(4)人の話を聞かず、自分のことだけ話したがる上に、話が長くてくどい。
(5)ふだんは尊大なくせに、困ったときだけ弱い高齢者のふりをする。
以上のような「老害」があると、失敗学と同様にコミュニケーションの第一歩となる共通理解がないので、相手と上手にやり取りすることはできません。よって、意識して「老害」の逆のことをすればうまくいきます。
3.「老い方」は人ぞれぞれ
長く生きているといろいろと衰えが徐々に見られますが、個人差があります。現実を見つめることから始め、その人なりの老いの状態を見極めます。そして、まわりの助力を得たり器具を使用し、自分にとって快適な状況をつくることが大切です。
著者自身に生じた老いの問題を身体機能、記憶力、思考力の3つに分類しています。
(1)身体機能
顕著なのは聴力と筋力の低下で、具体的には加齢性難聴と歩行速度の低下・歩幅の縮小と転倒
(2)記憶力
物や人の名前が出てこない、書きたい漢字が書けないなど
(3)思考力
思い込み、思い違い、並列処理能力低下による忘れ物とやりっぱなしが増え、物を探す時間が増加する。
4.終わりから考える(結果→原因)
老いの問題への対処には自分の身に起こりやすいこと、起こっては困ることを想定する。そして、そのときの被害を最小にするための備えをし、起こったときの対処方法をあらかじめ確認しておくこと。実際に問題が生じたら、対処に費やすエネルギーを最小にすることで、周囲も継続して介護などの支援も可能となります。但し「正確は一つ」でない事を肝に銘じることです。
83歳になった「失敗学の大家」がやっている「老い」に振り回されない生き方!!
2024年10月17日 9:07 カテゴリー:書籍紹介